「おう、外から見えたから知ってるって!」

 男性客は時花を見向きもせず、足早に該当コーナーへ立ち入る。

(怪しいですね)

 目を合わせないのが気になった。

 店員に張り付かれたら困ることでもあるのだろうか? 単に話すのが面倒臭い、という客も居るだろうが、彼は元気に対話している。行動だけがよそよそしいのだ。

「店員さんよぉ? オメガってさ、歴史と格式を重んじるメーカーだよな?」

 やおら、男性客の方から語りかけた。

「え? あ、はい……そうですね……?」

 これは予想外だった。時花は一瞬、返事が遅れてしまう。

「オメガの時計って、アメリカの宇宙飛行士が愛用してたり、オリンピックの公式タイムキーパーにも採用されたりしてるよな? ある意味でロレックスを超えてるぜ!」

 男性客はすらすらと蘊蓄をひけらかした。

 これも意外だ。

(この人、実はかなり詳しいのでは?)慌てふためく時花。(私の想定と異なる人物像です……! 公式タイムキーパー? 私、そんなこと知りませんでしたよ……!?)

「でさぁ。一九六九年に販売されたオメガの『スピードマスター』っつうモデルが欲しいんだよ、俺」