耳に心地よいアルトの響きと、静かだが店内一帯に浸透する声量。それだけで時花は、声の主が対人能力に優れていることを察知した。

 聞きやすい声色と、接客に欠かせない優しいトーン。

 レジスターの前に立っていた一人の青年が、にっこりと微笑みかけた。

(この方が店長さんでしょうか?)

 時花はぺこりとお辞儀する。

「面接の予約を入れていた、風師時花と申しますっ」

「はい、お待ちしておりました」

 青年は笑顔を絶やさない。

 人懐っこい微笑のまま、器用に唇だけ動かしている。営業スマイルというやつか。恐るべき表情筋の維持である。

 成人男性の平均身長よりやや高い程度の彼は、時花が見上げやすい角度だった。

 高すぎないのが良い。長身すぎる男は威圧感があって怖い、と嫌がる女性も居る。

 髪の色は栗毛で、顎が細い優男だ。

 なで肩で、胸板も薄い。腰から足にかけてスラリと締まっている。

 服装はジョルジオ・アルマーニのダブルスーツで、ボタンをしっかり留めている。ネクタイもきつめだ。高級品を取り扱う手前、店員の身なりも正装が求められるのか。