時計店。

 ここが時花の目的地だ。

 ガラス越しに覗ける店内は、淡い間接照明に照らされたショー・ケースの中で腕時計がずらりと陳列されている。

 どれもブランド品ばかりだ。一つで何十万円……いや、ものによっては桁が足りない。何百万円もする逸品や、一千万円を超える腕時計も存在する。

 時花は立ち止まり、硬直し、背中に冷や汗をしたたらせた。

(このお店で合ってますね……一応、時計店の面接を受けるに当たって、有名な時計メーカーやブランド名くらいは予習して来ましたけど……)

 面接先の業務内容を前もって調べておくのは、基本中の基本だ。

 何も知らずにのこのこ面接へ行こうものなら、本当にここで働く気があるのかと疑われてしまう。仕事への意欲を示す上でも、予備知識は不可欠だ。

(あの棚はロレックスですね。あっちはオメガ。ブライトリング、IWC……スイスの超一流メーカーばかりです! アメリカのハミルトン、ドイツのランゲ&ゾーネもありますね。店名に『古物』と付いてる通り、アンティークな中古品が多いです)

 暗記なら得意だった。勉強だけは出来る所以(ゆえん)だ。

『ブランド時計の下取りも承っております』

 看板の下には、そんな文言も踊っていた。