信号を渡りきったところで、止まっていた時が動き出したかのように、止まっていた車が走り出した。

私のそばには疑心暗鬼な様子でおじさんを見つめるケンと、相変わらず鬼気迫る様子で私について信号を渡ったおじさんがいる。


「で、おっさんの話ってのを聞こうじゃねーか」

「ここで話すのもなんだから、ちょっと場所を移動しよう」


そう言っておじさんが先導を切って歩き出した。私とケンは一瞬目を見合わせてから、お互いに頷いた。


“もしヤバそうな奴ならすぐに逃げるぞ”


ケンの目がそう言っていた。


「あっ、少しだけ待ってください」


そう言ってから私は道の端に屈み込み、靴を脱いでポケットから新しい靴紐を取り出し、今回も見事に引きちぎられたかのようにしてプッツリと切れた古い靴紐を交換した。


「これでよし! お待たせしました」


そう言って新しく結び直したスニーカーのつま先を地面にトントンと軽く叩きつけ、紐のキツさや靴の履き心地を確認した。

キュッと結び直した真新しい靴紐は眩しいくらいの蛍光ピンク色。普段ピンクなんてつけないけれど、これはお母さんの好みだ。選択肢がなかったにしろ、派手な色は少しだけ私の気持ちを軽くしてくれる気がした。