私はゴクリと生唾を飲み込んだ。そんなものじゃ勢いなんてつかないけれど、そんな小さな勢いですら今の私には必要だった。

どんどん近づいてくる曲がり角。あの角を曲がって少しすれば横断歩道が待っている。曲がってすぐ目に入る位置にある横断歩道。そこに待ち受けている人物を想像して、私はなんだかフと何かの考えが頭を過ぎったけれど、それを捕まえる前にその何かは忽然と姿を消していた。


「おい、カヨ、お前が言ってた奴ってどいつだよ」


ケンが耳打ちをするようにして、横断歩道の先を見据えてる。私も角を曲がってすぐ、ケンと同じように視線を泳がせた。


「あ、あれ……いない」


なんで? なんでいないの……?

私は慌てて辺りを見渡した。大通りだから他の小道に比べて人は多い方だとは思うけど、人に紛れるほどたくさんの人がいるわけじゃないし、そもそもあんな風体のおじさんを見落としたりしない。

いつもより早く着いたとか?

そう思ってポケットに閉まってあったスマホを取り出して画面を開くと、時刻は8時過ぎ。今までこの時間を確認したことはなかったけれど、いつもと同じだと思う。


「本当にここなのかよ」

「間違いないってば。だって私ここで何度も……」


思わず足元に視線を落としてみたけれど、いつもと同じスニーカーがいつもと同じ状態でそこにはあった。


「もしかしたら少し時間が早いのかも。ちょっとここで待ち伏せしよう」


信号は青に変わったけれど、私達は横断せずに道ゆく人に目を配った。

いない訳ない。絶対あの人は来るはずだ。


『俺はお前を助けに来た!』


あの人はそう言った。

でもどうやって? そもそも何から助けるつもりなの?

都合よくあの人は私のことを知ってるんだって思ってるけれど、実際はそうじゃないのかもしれない。やっぱりただの不審者だって可能性も拭いきれないでいた。