「で、話ってなんだよ」


家を出たところで、ケンは早速口を開いた。家の中では話す気にもなれないし、そもそもすでに遅刻寸前なわけで、お母さんがゆっくり家で話をさせてくれるわけもない。

私は足元に目を向けて、自分が履いているスニーカーの靴紐をじっと見つめた。少し煤汚れた、それでいてなんの変哲も無い靴紐。それがこの後見事に切れる事を私は想像して、顔を上げた。


「私ね、どうやらタイムリープしてるみたいなの」


ケンが私の顔をマジマジと見ている。眉間にシワを寄せながら、はぁ? って顔を向けている。

だけど私は知っている。ケンが私の話を信じてくれるって事を。前回のタイムリープでそれは確認してるのだから、私はケンの顔を逸らす事なく真っ直ぐ見つめた。笑ったり、冗談を言ってごまかしたりしないで、ちゃんと……。


「真剣な顔で言うけど、冗談だよな?」

「違う、冗談なんかじゃない。こんなつまんない冗談、こんなに最悪なコンディションの時に言ったりしない」


物珍しそうに、それでいて疑わしそうに、ケンはマジマジと私を見つめた。


「嘘じゃ、ないんだな?」

「うん」


ケンはもう一度疑わしげに私を見た後、一つため息をこぼしてこう言った。


「分かった、信じる」


私はその答えを聞いて、ゆっくりと頷いた。


「うん、ケンはそう言うと思ってた」

「なんだよ、やっぱり嘘なのかよ」


さっきとは打って変わってケンがイライラとして口元を膨らませたりへこませたりしている。


「ううん、嘘じゃない。ただ私はこの話をケンにするのが二度目だから」

「はぁ?」


眉間にこれでもかってほどのシワを寄せられた。今日イチのシワの深さだ。