「いや、本当に大丈夫だよ。カヨちゃんこれはしまって。あたしこんなの受け取れないよ」

「本当に気にしないで。じゃないと私、ことりちゃんが心配で今夜寝れなくなっちゃうから、ね? 私を助けると思って、お願い!」

「カヨちゃんこそ体調悪いんでしょ? だったらカヨちゃんが使ってよ。あたしだってカヨちゃんの体が心配で寝れなくなっちゃうよー?」


ことりちゃんは困った様子で笑いながらも、目でケンに助けを求めた。私の背後でぼーっと立ってるケンの体に肘で小突きながら、私に加勢するように促した。


「カヨのことは気にしなくて大丈夫だって、柊が思ってる以上にこいつ頑丈だし。それに帰りは俺も一緒にいるから」

「そ、だからことりちゃんはなーんにも心配しないでタクシー使って帰って大丈夫だよ」

「えー……でもぉ」


ことりちゃんは再び困ったように笑ってる。友達が怪我したからって私がタクシー代出すなんて、無駄に大げさにしてるとしか思えない。

けど、こうでもしないと安心できないし、タクシーで駅までじゃなくちゃんと家まで帰ってもらわないと意味がないんだ。


「本当にいいから。今日だけ、ね? そもそもことりちゃんちまで千円で足りる?」

「うーん、分かった。じゃあありがたく使わせてもらうね。千円で十分だよー」


ケンも引き止める様子がないことに、ことりちゃんは降参した様子だ。机の上に置いた千円をしっかりと握り締めて私に向かってことりちゃんは頭を下げた。


「ありがとうね、カヨちゃん」

「ううん、全然! それより、ちゃんとタクシーで“家まで”帰るんだよ」

「うん、分かったー」


諦めもついたのか、ことりちゃんはいつものふわふわとした笑顔でそう答えた。