「カヨ、お前靴紐切れてんじゃん」

「えっ」


信号を渡りきったところで私は自分の履いているスニーカーに視線を落とした。すると、ケンのいう通り、私の右側の靴紐がぷっつりと切れていた。


「げー、縁起わるっ!」


靴紐がほどけてるならまだわかるけど、切れるとかって本当にあるんだ。この靴確かにちょっと古いけど……って、あれ? 私なんか知ってる気がするこの状況。

なんでだろう、なんかすごく昔にもこんなことあった気がするけれど、いや靴紐が切れるとか過去にあったら間違いなく覚えてるはずだ。


なんだっけ? なんて言うっけ、こういうなんかちょっと懐かしいような、元々知ってたようなこの状況の事。


「そんなんでよく転ばなかったな」

「いや、危うく転びそうだったんだって。けど、あの向かい側にいたおじさんが助けてくれたのよ」


そうか、ケンは先を歩いてたから見てないんだ。私が実際に転びそうになったところも、あのおじさんに助けてもらったところも。


「おじさん?」

「ほらさっき話してたじゃん、ちょっと髪が長めで一つに縛ってた細身の人」

「ああ、あのむさ苦しそうなおっさんか」

「そうそう」


助けてもらっといてケンのこの言い方に共感するのは良くないかな、と思いつつ私は再び振り返って横断歩道を見つめた。

信号は赤に変わり、車が横断を始めていた。もうとっくにいないというのに、さっきのおじさんの姿を思い返していた。


やっぱり、どっかで見たことある気がするんだけどなぁ。


「おーい、マジで遅刻するから置いてくぞ」

「あっ、待ってってば」


私は一度深く屈み込み、切れた靴紐の先を靴の中に入れ込んだ。これでとりあえずは歩けるけど靴紐買いに行かなきゃ、と思いながら、ケンの後を追った。