そう思ってなんとなく自分の足元に目を向けた時だった。私はケンが言った言葉に耳を疑った。


「でもあのおっさんはお前のこと知ってるみたいだったぞ。お前が急に逆走し出した時、あいつも急に駆け出してお前を後ろから追っかけてったからな」


その言葉にゾッとして、私は足を止めた。


「お前、本当にあいつと知り合いじゃないのか?」


ケンもどうやらあの男性を疑ってるみたいだ。ケンは訝しげに眉間にシワを寄せながら私に詰め寄った。


「わかんねーけど、あいつヤバいやつなのか?」


ケンに夢のこと話そうか? でも信じてもらえる? こんなよくわかんない話。私が逆の立場だったら信じられないと思う。

私がじっと口を真一文字に閉ざしているものだから、ケンはため息をこぼしながら私を置いて歩き出した。


「お前あの信号待ちしてる時、急にあからさまに顔色変わったからな。んで向かいにいたあのおっさんがカヨを追っかけるみたいにして駆けてったし……お前のその様子だと知り合いだってのは図星だろ。何があったのかは知んねーけど」

「ケン、もし夢で起きたことが本当になったとしたら、どう思う?」

「はっ?」

「きっとあんたは信じてくれないと思うけど……とりあえずもうすぐネカフェだしそこで話そ」


私はケンを追い越して、どんどん先を歩いて行った。ケンに信じてもらえるとも思わないけど、ケンの言葉を聞いて、私は話してみようと思った。


『おっさんがカヨを追いかけるみたいにして……』


その言葉を聞いた時、私は身震いが止まらなくなった。


『なんで逃げたんだ……?』


あの人は私のことを知ってるんだ……。でもどこで会ったの? 私は夢の中で見た記憶しかないのに。