目の前がぐらりと揺らいだ気がした。


「そのままだと歩けないだろ。それならいっそのこと全部捲るか?」


足を上げるたびにパカパカと口を開くローファーの靴底。私はそれを見て靴紐が切れたスニーカーを思い出した。


「普段履いてないもん履くからだな。靴底の糊が弱ってたんだろ」


靴紐が切れたわけじゃないけど、でもあの光景と今の現状が重なって見えて、私は思わずその場にへたりとかがみこんでしまった。


「おいカヨ、どっか怪我したのか」


私はただ無言で頭をブンブンと振るった。こんな意味のわからない夢の話をケンにしたところで、信じてもらえるとも思えない。なにせ自分でもまだ怪しんでいるくらいだから。


「今日はなんか学校に行く気分じゃない」

「なんだよ、随分弱ってるな。体調悪いのか?」


体調、悪いのかな? ずっと頭の中がぐるぐるしてて、気分が悪い。かと言って吐きたいとかそういうんじゃない。

ケンは私の腕を掴んでぐっと、体を引き上げた。


「じゃあ、サボるか」


そんな風に簡単にサボりの言葉を口にしながら。


「え?」

「だって、学校に行きたくねーんだろ? じゃあサボるしかねーじゃん」


いや、そうだけど。そうなんだけどさ。


「あっさり言ってくれてるけどさ、さっきまで遅刻を気にしてた人間のセリフとは思えないんだけど。ってかそもそもケンもサボる気なの?」

「だってカヨがサボるのに俺がサボれないとか不公平だろ」

「その理屈意味わかんないでしょ」


なんで不公平とかの話になんのよ。そのセリフうちのお母さんの前でも言えるのか? いつもお母さんの前では良い顔しようとするから、いつしかお母さん的にはケンが私を学校に連れてってくれてると勘違いしている。

むしろその逆で、ケンはいつだってゲームやら動画を見ていたい人で学校はサボれるものならサボりたいはず。けど、私はこう見え皆勤賞ものの出席日数を誇る生徒だ。

ただ、遅刻は常習だけど。