そんな私の体を解放へと導いてくれたのは、背後からやって来たケンの声だった。
「カヨ、大丈夫か!」
もしこれがケンがよくプレイしているロールプレイングゲームの世界だったなら、ケンはさしずめ魔法使いというところだろうか。固まった私の体はケンの声に反応して軽くなった時、そういう想像が頭をよぎった。小さな頃からプレイするケンの横でそれを見ていただけに、そんな想像が容易にできてしまったんだと思う。
「急に逆走するわ、自転車とぶつかりそうになるわ、マジで朝から脅かすなよ」
「ごめん……」
ケンが慌てた様子が目に見えて、私は思わず素直に謝った。ポーカーフェイスがケンのお得意で、心をかき乱されるのが好きじゃない彼が、そんな反応を示したのだから謝らずにはいられない。
「それよりあのおっさん、お前の知り合いだったのかよ?」
「知らない、と思う……」
「は? なんだその回答?」
ケンは眉間にシワを寄せながらさっきの焦った顔から一転して、いつもの平然とした表情で私の表情を読もうと見つめているけれど、私はそれ以上なにも言えなかった。
私だって知りたいんだ。あの人は一体誰なのか。なんで私にまとわりつくのか。
それは偶然なのか、必然なのか。
夢の中であの人は私を殺そうとした。それは間違いないし、一度ではなく二度も。だけど、助けてくれた事もある。だから私は混乱している。
全ては夢で、夢はあくまで夢だけど、なんていうかいつもと感じ方が違う。だってーー。
「カヨ」
そう言ってケンはいつもゲームばかりしている節くれた大きな指でつん、と私の足元を指差した。
「靴底、めくれてる」
言われて初めて気がついた。ローファーの靴底が半分くらいめくれて、ひっくり返っていたことに。
「カヨ、大丈夫か!」
もしこれがケンがよくプレイしているロールプレイングゲームの世界だったなら、ケンはさしずめ魔法使いというところだろうか。固まった私の体はケンの声に反応して軽くなった時、そういう想像が頭をよぎった。小さな頃からプレイするケンの横でそれを見ていただけに、そんな想像が容易にできてしまったんだと思う。
「急に逆走するわ、自転車とぶつかりそうになるわ、マジで朝から脅かすなよ」
「ごめん……」
ケンが慌てた様子が目に見えて、私は思わず素直に謝った。ポーカーフェイスがケンのお得意で、心をかき乱されるのが好きじゃない彼が、そんな反応を示したのだから謝らずにはいられない。
「それよりあのおっさん、お前の知り合いだったのかよ?」
「知らない、と思う……」
「は? なんだその回答?」
ケンは眉間にシワを寄せながらさっきの焦った顔から一転して、いつもの平然とした表情で私の表情を読もうと見つめているけれど、私はそれ以上なにも言えなかった。
私だって知りたいんだ。あの人は一体誰なのか。なんで私にまとわりつくのか。
それは偶然なのか、必然なのか。
夢の中であの人は私を殺そうとした。それは間違いないし、一度ではなく二度も。だけど、助けてくれた事もある。だから私は混乱している。
全ては夢で、夢はあくまで夢だけど、なんていうかいつもと感じ方が違う。だってーー。
「カヨ」
そう言ってケンはいつもゲームばかりしている節くれた大きな指でつん、と私の足元を指差した。
「靴底、めくれてる」
言われて初めて気がついた。ローファーの靴底が半分くらいめくれて、ひっくり返っていたことに。