昇る朝日に向き合う形で私は横断歩道の前に出た。信号は赤。まばらに人が信号待ちをしている中、私とケンもその中に加わった。

私の目だけじゃなく、心臓までも持っていったのは向かいで信号待ちをしているむさ苦しい風体の、あのおじさんだった。


「……同じだ」


何もかもが夢と同じ。夢で起きた内容と同じことが目の前でも起きている。

思わず足元に視線を向ける。すると一瞬記憶と現実がダブって見えて、私はスニーカーを履いている錯覚に陥った。

靴紐が切れたスニーカー。


「カヨ、信号青だぞ」


ケンのその一言にハッとして私は顔を上げた。

信号は青に変わり、街行く人もその中に紛れるようにケンも歩きだしていた。

不審がるケンの表情には目もくれず、私は再び自分の足元に視線を落とすとスニーカーではなくローファーをちゃんと履いていた。


「カヨ?」


私はケンの声に反応するように顔を上げ、ケンの向かい側から歩いてくるあの男を見やった。

朝日を反射している眼鏡のせいでいまいち表情は読み取り切れないけれど、目が合ったーーそう思えるほど、おじさんは私から顔を逸らさない。


「……やっぱ私、今日はあっちから行くわ」

「お前何言ってーー」

「じゃね!」


だってなんか本能とでもいうのだろうか。体が、脳が、私の夢の記憶が、全力であの男から逃げろって言うんだから、これはもう従うに越したことはない。学校に遅刻するくらい別にどってこともないし。

ケンの言葉にも聞く耳持たないで、私は今来たばかりの道を全力で逆走した、ちょうどその時だった。角を曲がった瞬間、向かいから自転車がやって来て私が勢いよく走っていたせいで自転車もブレーキを止めきれない。

ぶつかる。そう思って今からやってくる痛みを予想して目をぎゅっと瞑った。