玄関でいつも履いてるスニーカーに足を通したところで、夢の事を思い出した。まるで私にその事を知らしめるかのように、映像が脳内流れて、思わず目をぎゅっと瞑った。


「おい、せっかく人が待ってたってのに、置いてくなよ」

「頼んでないでしょーが。先に行ってって行ったじゃん」

「お前生理前だからってイライラして……って、なんだよローファー履くとか珍しいじゃん」


私の足元に視線を落としたケンが片眉を小さくピクリと動かした。


「ローファーは靴の中蒸れやすいからとか言ってなかったっけ? それ履いてるの久々に見たけど」

「ちょっ、それ雨降った時に言っただけじゃん」


万年足臭男なお父さんじゃあるまいし、変なイメージつけないでほしいんだけど。


「スニーカーの方が走りやすくて楽だから普段はローファー履いてないだけで、今日はなんとなくこっちの気分なんだよ」

「なんだそれ」


訳わかんねーって言いながらケンはスタスタと私を追い越して歩き出した。


「あっ、ねぇケン。今日はこっちの道から行かない?」

「はっ? なんでだよ」

「なんでって……なんとなく」


うまい言い訳が見つからなくて、思わずそんな適当な返事をしたら、ケンは眉間にこれでもかってほどの深いシワを刻んだ。


「遠回りになるから却下。マジで遅刻する気かよ」


そう言って聞く耳持たずケンは再び歩き出した。


だよねー。そうですよねー。