「佳代子、いつまで寝てるの。とっくにケンちゃんが迎えに来てるわよー」


お母さんがそう叫ぶ声が扉の向こう側から聞こえて、思わず時計を見やった。


「やばっ、もうそんな時間なんだ!」


私は慌てて棚から着替えを掴んで部屋を飛び出した。


「お母さーん! ケンにシャワー浴びるから先に行ってって、伝えといてー」


私は部屋の扉を開けてそう叫けんだ後、部屋を一歩出たところではたと我に返った。


……あれ、これ夢の中と同じ光景だ。

デジャヴっていうのかな? ううん、違う、デジャヴというよりもっと感覚的にリアル。だってこの光景は“なんとなく”なんかじゃなくて、実際に“見た”と実感のある光景だから。

だとしたら夢だとこの後どうだったっけ? 確かケンがお風呂場の前で待ち伏せしてて……。


私は顔を上げて一本道の廊下の先、お風呂場へと続く洗面所の扉の前で待ち伏せしているケンを見つけた。


「お前、そう言うことは早めに言えよな。メッセージ送ったら一発だろうが」


腕を組んで壁に背を預けながら不満そうにしている表情も、ケンが言ったこの一言も覚えてる。


「……あ、ごめん」


違う事を考えていたせいで、思わず素直に謝ってしまった。するとケンは驚いた表情で組んでいた腕を解き放った。


「なんだよ、素直だな。熱でもあんのか?」


失礼だな。私が素直に謝っただけでなんでそんな言われ方をしなくちゃいけないのか。そう思いながらも私の脳みそは別のことでいっぱいで何も言わずにいると、ケンが再び口を開いた。


「とりあえずシャワー浴びるんだろ。さっさと入ってこいよ」


ケンは訝しげな顔をしながらも、洗面所から離れてママがいるキッチンへと向かった。