『一体、あなたは誰なの……?』


私はぐっと腕を伸ばした。すると思っていたよりも自分の腕が重く、何より目の前にブラックホールでもあるのかと思うくらい、何か思い重圧が私の体を、脳を捻り潰そうとしているように思えて思わずえずいた。


「うえっ、げほっ、げぇっ……!」


涙目を擦りながら目を開けると、目の前に広がる光景は駅前の道路でもなければ、そこに横たわることりちゃんもいなければ、そばで人形のように立ち尽くすケンもいない。ただの天井だった。


「……夢?」


また、夢? あんなに生々しくて、鮮明なのに……?

私の右手は夢の中で手をかざしたのと同じ状況で止まっている。けれどその手の伸びる先にことりちゃんはいないし、いつも見てる自分の部屋の天井に向いているだけで、全ては霧が晴れたように目の前に広がる現実は違っていた。


「でも、夢で良かった……」


私は伸ばしたままだった手を引いて、片方の手で覆った。その時初めて私の手が震えていた事に気がついた。夢の中で自分がトラックに轢かれそうになった後も同じように震えていた。


夢の中の私も震えていたんだと思う。そんな事に気を取られる暇もないくらいあの内容は私にとって残酷だった。


夢でことりちゃんが倒れていた時、たくさん血が流れて、私の声には一切反応しなくて、まるで映画でも見ているようなそんな光景なのに、それが映画やフィクションではないって感じていた。

景色一つにしても街の光景、草花や車の排気ガスの臭い、全てが現実だと私に知らせていた。


夢ならそれでいい。自分が死ぬのも嫌だし、今でもあの夢の映像はクリアに思い出せる。だけどそれよりも自分の大好きな人が目の前で死ぬなんて、嫌悪感と恐怖しか湧かない。