「知り合いか?」


訝しがるように私の顔を覗き込むケンにハッとして、首を振った。


「ううん、なんか分かんないけどどっかで見たような気がしただけ。でもあんなおじさん知るわけないから多分テレビで見た誰かに似てたのかも」

「なんだよ、カヨの好みが変わったのかと思った」


バカにするような笑みでそう言うケンに、私はカンマ入れず平手打ちを入れた。さすがに頬ではなく、いつの間にか広く大きくなったケンの背中にだけど。


「私の好みなんてどこで知ったのよ」

「お前いつもアイドルとか見ては騒いでるだろ」

「アイドルは騒ぐでしょ。だってアイドルだもん」

「はっ、バカみてーな回答だな。いてっ!」


今度はさっきよりも強くケンの背中に平手打ちを加えた。


「いちいち殴んなよな、お前どんどん凶暴化してるぞ。そんなんだから彼氏もできねーんだよ」

「うるさいな! ケンこそ彼女いないじゃん」

「俺は作らねーだけだっつーの」

「強がっちゃって。あんたはオタクだからできないだけじゃん」


ケンは暇さえあればいつもPCに向かってゲームしてるかインターネットで動画見てるかのどっちかだ。挙句、無駄とも言えるほど頭がいいのがまたオタク感を助長している。

ケンのなにがムカつくって、頭がいいのに私と同じ高校にいるところだ。

私は自分の入れる高校のレベルを上げるために勉強を頑張ったけど、ケンは違う。むしろケンにとってはうちの高校はレベルが低いと思う。

けど、一番家から近いっていう理由だけで私と同じ高校を選んだところがまた癇に障る。


「生理前だからって朝から俺に当たんなよ」

「はぁ!? なんで知ってんのよ気持ち悪っ!」

「なんだよ当たってんのかよ、マジで単純だなお前。こんなのただのカンに決まってんだろ、いちいちお前の生理とか把握してっかよ」


信号が青に変わったと同時にケンは私から距離を取った。私が殴ろうとしていることを察知してとっさに逃げたに決まってるんだけど。