あれ、この感覚って以前にもどこかで……?


そんな風にこの状況をどこか懐かしく思いながら、私はケンが叫びながら駆けて来る様子を黙って見ていた。

私は自転車がぶつかる衝撃に備えて目をぎゅっと瞑っていたけれど、その衝撃はやって来る事なく、代わりに誰かが私の背中を強く押した。

するとーーガシャン! と音を立てて自転車とその運転手の男子は転倒し、押された勢いで私の体は振り子のように大きく揺らぎながらも靴紐を結び直した足を踏ん張って、なんとか転ぶのは免れた。

景色はまだゆっくりと動いている。私の体も行動も、全てゆっくりと流れる時に逆らうことなく動いている。

自転車に乗っていた人物は私とは反対方向へ転び、私は条件反射の如く背後にいる人物を見ようと振り向いて、絶句した。


転倒している自転車の隣に立っているのはさっき見失ったあの男性、今朝私を助けてくれたというあのむさ苦しい姿をした男性だった。



「大久保くん!」



私が声を発しようとしたちょうどその時だった。今度はことりちゃんがケンの名を叫ぶ声が聞こえて、私は再び正面を向き直り、ケンが私のそばまでかけて来ている事を知った。

スローモーションな時の中でケンが私のそばに着いて私の腕を強く引き寄せた時、すぐ近くにトラックが来ていることに気がついた。


ーートラック……?


私はゆっくりと流れる時の中で、花火が目の前でスパークするようなそんな眩さを感じた。

今朝の夢で私はトラックに轢かれてーー。

このタイミングでなぜかあの時の夢がフラッシュバックしたと同時に、胃の底からマグマのように何かが込み上げてくるのを感じた。


ーードンッ!


胃の中の気持ち悪さと花火のような眩さを感じる中、まっすぐに私の耳に突き刺すように届いたのは、何かがぶつかり合う鈍い音だった。