「カヨちゃん、大久保くん、二人とも方向違うのに駅まで送ってくれてありがとうね。ここで大丈夫だよ」


駅に着いたけど、改札は階段の上だ。しかも結構な段数があって、足を引くようにして歩くことりちゃんにはかなりの難関だ。


「この駅ってエレベーターないの?」

「あっちの乗り場からならエスカレーターがあるぞ」


そう言ってケンは横断歩道を渡った先の入り口を指差した。


「じゃああっちまで送るよ」

「えーいいよいいよ、もうすぐそこだし」

「ここまで来たら横断歩道渡ろうが渡るまいが一緒だから」


そう言って、ケンの背中を押した。ケンはまだことりちゃんの荷物を持ったままだ。


「あっ、カヨちゃんの靴紐ほどけてるよ」


ことりちゃんに言われてふと足元に視線を落とすと、今朝切れた方とは逆側の靴紐がほどけていた。


「あっ、ほんとだ」


私はその場にしゃがみ込み靴紐を結び直そうとした時、ことりちゃんが叫んだ。


「カヨちゃん危ないっ」


その声にハッとして顔を上げたら、私のすぐ近くにスマホ片手に自転車に乗った他校生が私めがけて突っ込んで来てた。何が最悪って、その男子はスマホで動画を見ながらしっかりイヤホンまでしてる。


私の体は固まったようにこの状況をじっと見てた。なぜか分からないけど、動けなかった。

周りの景色はゆっくりと動いているように見えて、私が慌ててその場から逃げれば事は免れそうなのに、なぜだか私にはそれができない。脳がダメだって言ってる。

ゆっくり動く世界は私がじっとしてることが条件で、その条件を満たさなければ通常の動作に戻る……そんな風になぜか思えて、私は微動だにせず、どこか冷静にこの状況を見ていた。