「でも、もういなくなっちゃったし」

「隠れてるだけかも知んねーじゃん」

「なんでそんな怖い方向に話を持っていくかな。あの人って今朝倒れそうになった私を助けてくれたんじゃなかったっけ?」


ってか、そう教えてくれたのはケンなのに。


「ってか、しまった! それならちゃんとお礼言えてないし」


私はあのおじさんがいなくなった曲がり角に視線を向けなおして、追いかけるかどうか悩んだ。今まだ近くにいるかどうかも分からないのに追いかけていってお礼言うのもどうなんだろう……そんな風に思って。


「なんか変なんだよな。あのおっさん明らかにつけてる感じだったし。お前、夢で見たとかなんとかいってたけど、あれ本当はどっかで会ったことあるのを夢だと思い違いしてるんじゃねーの?」

「えー、そうなのかなぁ……?」


つけてたかどうかは別にして、夢であのおじさんを見たのは確かだ。夢の内容は覚えていなくても、今朝あのおじさんを見た時に私はあの人を今朝の夢で見たって確実に思ったし。

今朝の方が夢の記憶がクリアだったわけだから、あの時そう思ったのなら間違いない。あのおじさんとは確実に夢で会ってる。


けど、以前にあのおじさんを見かけたことがあるかどうかについてはさだかじゃない。だって、私が意識して見てなかっただけで、あの人とは毎日通学路で会ってた可能性はあるわけで……。私の脳が認識してたかしてなかったかの話なだけで、実は何度か会ってる可能性はある。