「本当に一人で大丈夫だよー」


放課後、クラスメイトが帰宅やら部活行く準備をしている中、私はことりちゃんを確保した。


「だーめ、そんな足で一人で病院行けないじゃん」

「行けるよー。あたし元陸上部だし、体操だってしてた事があるんだよ? これくらいの怪我には慣れてるんだから」


ことりちゃんが柔らかそうな二の腕でぎゅっと力こぶを作って見せた。ふっくらとした二の腕の筋肉は小さな山を作っていた。本当に見た目によらず筋肉があるんだな、なんて感心しながらも、私はことりちゃんのその腕を掴んだ。


「ことりちゃんって電車通学だったっけ? それならせめて駅まで送るよ」

「えー、そんな大ごとにしなくて大丈夫だよー。カヨちゃんってば意外と過保護なんだね」


誰に対しても過保護にするわけじゃない。もちろんことりちゃんだからに決まってる。とにかくことりちゃんがクスクスと笑っている間に机に掛けられていた指定のリュックを掴んで、近くでずっとスマホに見入っているケンに渡した。


「ほらケン、荷物持ちよろしくね」

「なんで俺なんだよ。しかも俺も行くとは言ってねーけど」

「でも私と一緒に帰るんでしょーが。私がことりちゃんを送って帰るんだからあんたは自ずとついてくるでしょ」


ケンの少し長くなった前髪の奥で細い目尻がさらに尖った。私はそれに気づかないフリをしてことりちゃんの方を見やる。


「じゃ、帰りましょうか」

「あたし、大丈夫だよ。大久保くんに悪いよ」

「気にしない、気にしない。さぁ行こう」


私より頭ふたつ分くらい低いんじゃないかと思えるほど小さなことりちゃんの肩を後ろから両の手で掴んで押しやった。

まだ申し訳なさそうに小さな肩をさらに小さく竦めることりちゃんに思わず抱きしめたい衝動が走ったけど、それをグッとこらえて私達は教室を後にした。