「ってことは、あたしも良い奴って事だよねー? カヨちゃんが一緒にいてくれてるから」


ことりちゃんは言いながらまた笑った。


「当たり前でしょ。ことりちゃんはいい子だよ。ケンの何倍もいい子だよ!」


更衣室の入り口にはカーテンが引かれ、奥の部屋が覗けないようになってる。私はそのカーテンの外にいたけど、着替えを終えたことりちゃんが出てくるのを見て、私は思わず抱きついた。


「わっぷ!」


陽の光を浴びて黄色味が濃くなったカーテンにくるまる形で私に抱きつかれたものだから、小鳥が網に引っかかってもがいてるみたいになってる。


「もーカヨちゃんはあたしを窒息死させる気なのー?」

「あははっ、ごめんごめん。愛することりちゃんを殺すなんてする訳ないでしょ」


そう言いながらも私は再びことりちゃんに抱きついた。今度は絡まったカーテンを解いた後で。


「それよりカヨちゃん、予鈴鳴ってるよー。早く教室に戻ろう」

「あっ、そうだね。でもことりちゃん歩ける? ケン呼ぼうか? あいつならきっともう着替え終わってると思うし」

「ううん、大丈夫だよー。全然歩ける!」


ことりちゃんは小さな手をぎゅっと握りしめてこぶしを作りながらも、包帯を巻かれた足を引きずるようにして歩いている。

私はことりちゃんに肩を貸そうとしたけど、身長差があるせいで逆に歩きづらそうだし、とりあえず隣を歩いて階段を登る時だけ手を貸すことにした。


「でもことりちゃんが転ぶなんてほんとに珍しいよね。運動神経が良すぎて転んだとか?」

「あはっ、なにそれー。運動神経良すぎて転ぶってよく分かんないよー」


だってほんの数バーセントの運動能力でもいいから分けて欲しいと心から思うくらい私は運動音痴で、ことりちゃんは運動神経がかなり高い。しかも小さくて俊敏なことりちゃんはたとえ足元にある小石を蹴って転びそうになったとしても華麗に側転でも決めて回避するんじゃないかって思ってるくらいだ。