「あら、朝からどうかした?」


ガラリと音を立てて引き戸を開けると、薬剤の香りがツンと鼻の奥を差した。


「なんか体調悪いみたいなんで連れてきました」

「そうだったの、大久保くんありがとう。えっと、2組の種田さんだったわよね?」


ケンはよく体調不良を訴えて保健室に休みに来るだけあって、保健医の先生もケンの名前はすっかり覚えてしまっている。

ほとんどがゲームのしすぎによる頭痛と寝不足なんだけど。


「熱と脈をまず計りましょうか。種田さんそこに座って、大久保くんは授業始まるから教室に戻りなさい」

「じゃあ、カヨ俺は先に教室戻っとくからリュック持ってくぞ」

「うん、ありがとう」


頭が混乱して、とてもたくさんのクラスメイトのいる教室に行く気になれなくて、私はケンに勧められるまま保健室に来てしまった。保健室くらい一人で行けるっていうのに、また倒れるといけないからってケンがここまでついて来てくれたけど、ケンってばこういう時だけ妙に過保護だと思う。


「脈は少し早いけど、問題ないわね。熱もないみたいだし……あら、靴紐が解けているわ」

「いえ、なんか切れちゃったみたいです」


私は靴の中に入れ込んだ靴紐を取り出して、プッツリと切れたその先を見せた。


「あらら、見事に切れたわね」

「縁起悪いですよね……私は今日、死ぬかもしれないです」


失敗した。こんな暗い言葉、冗談交じりに言わないと気持ち悪いに決まってるのに。けど、今の私には冗談を言っていられるほど心に余裕はなかった。

なんで夢のことちゃんと覚えてないんだろう。そしたらなんで私が死んだのかもわかるかもしれないのに。

靴紐が切れたのも夢の中で起きた光景と同じ。だけど、それだけ。それ以外に新しいことは何も思い出せない。