「おい、カヨ! 大丈夫か?」


ケンが私の腕を強く掴んでいた。目の前に広がっていたホワイトアウトを抜けた先には、いつもの景色。ただケンが怪訝そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。


「あっ、ごめ、なんかめまいしてた」

「大丈夫かよ。とりあえず信号変わるからさっさと渡るぞ」


私はどうやら横断歩道の真ん中まで歩いていたらしい。信号はとっくに赤から青に変わり、それも点滅を始めていた。


「歩けるか?」

「あ、うん、平気」


まだ頭がクラクラしてる。足も正直おぼつかない。さっき何かを思い出したのにそれがなんだったのか、また忘れてしまった。

私は何を見たんだっけ……?


「びっくりしたぞ、急にお前よろめき出したから何事かと思った」

「ご、ごめん」


ケンはまだ私の腕を掴んで離さない。さっきケンに声をかけられて意識が戻ってきた時、私の足は軟体動物にでもなったかのように力が入らなくて、ケンに支えてもらってなかったら倒れていたかもしれない。


「お前やっぱあのおっさんと知り合いなんじゃねーの?」

「……へっ?」

「おっさんがすれ違いざまにカヨの腕を掴んでくれたおかげでお前倒れずに済んだんだろ。覚えてねーのかよ?」

「そうなの? あの時もうすでに朦朧としてたから……」


私は思わず足元を見やった。


「靴紐が、切れてる……」


あっ、これ……夢と同じだ。