「私の好みなんてどこで知ったのよ」

「お前いつもアイドルとか見ては騒いでるだろ」

「アイドルは騒ぐでしょ。だってアイドルだもん」

「はっ、バカみてーな回答だな。いてっ!」

「いちいち殴んなよな、お前どんどん凶暴化してるぞ。そんなんだから彼氏もできねーんだよ」

「うるさいな! ケンこそ彼女いないじゃん」

「俺は作らねーだけだっつーの」

「強がっちゃって。あんたはオタクだからできないだけじゃん」


なんだかいつも以上にイライラする。なんでだろ、生理前のせいなのかな、なんて思ってる間に、信号は赤から青に変わろうとしていた。

私は再び、あのどこか懐かしい感じのするおじさんに目を向けた。するとおじさんもこちらをじっと見つめていた。


「あっ……」


まるで稲光が目の前に広がったような、そんな鋭い感覚に私は酔いそうになった。


「カヨ?」


私の目の前はまだホワイトアウトした状態で、そんな中で目の前に広がる光景は記憶に残っているわずかな今朝の夢のかけら。記憶の中の景色に目を向けているせいか、ケンの声がどこか遠い。


そうだ、私はここでトラックに轢かれたんだ。


「カヨ!」


そう、あの時もケンがこんな風に私を呼んでいたけど、目を開けることも呼びかけに答えることもできなかった。


そうそれで、私は見たんだ。