「ちょ、待ってよ」
「なんだよ、先に行けって言ったのはお前だろ」
「ここまで待ってたんならあと少しくらい待つのが筋ってもんでしょーが」
「待ってねーよ。カヨママの朝ごはん食いに来ただけだっつーの」
「言っとくけど、あれあんたのじゃないからね! 本当は私ので、ケンのはついでだから」
「へいへい」
ケンは振り返りもせず私との距離をどんどん突き放して行く。
一緒に行く気があるのかないのかよく分からないけど、ケンはいつもこうだ。マイペースというか、なんというか。
「あっ、あの人……!」
横断歩道で信号待ちをしている時、向かいの歩道を歩いている男性。朝日が男性のかける眼鏡に反射して、私の位置からは人際目立って見えるけど、なんて事ないちょっと風変わりなおじさんって感じだ。
無精髭が生え、ヘアカットも頻繁にされていないような長めの髪を一つ括りにしている細身の男性。おじさんに見えるのはその風体のせいで、実際はどうかわからないけど、眼鏡で顔がよく見えないせいで中年ぽく見える。
風変わりとはいえ、私はあのおじさんの姿を見た瞬間、脳裏に映像が流れ込んでくるかのようにして、思い出したことがある。
「知り合いか?」
訝しがるように私の顔を覗き込むケンには見向きもしないで、私はひたすら向かい側にいるおじさんを見やった。
「知り合いじゃないけど……知ってる」
「なんだよ意味深だな。あんなむさそうなおっさんどこで知ったんだよ」
あの人は、そう……間違いない。
「あの人、昨日私の夢の中に出てきた人だ」
見た夢の内容なんていつもなら覚えていない。今朝だって正直覚えてないし、この数分の間にすでに全てがおぼろげだ。今朝起きた時よりもずっと。
だけど、あのおじさんの顔を見た瞬間、まるで記憶がフラッシュバックでもするように思い出した。
うん、間違いない。あの人は今朝私の夢の中に出てきた人だ。
「こんな遅刻ギリギリの中でなかなかしょうもない話するなよな」
「冗談じゃないってば。本当に見たんだから」
「俺はてっきりお前の好みが変わったんだと思った」
バカにするような笑みでそう言うケンに、私はカンマ入れず平手打ちをケンの背中に入れた。
「なんだよ、先に行けって言ったのはお前だろ」
「ここまで待ってたんならあと少しくらい待つのが筋ってもんでしょーが」
「待ってねーよ。カヨママの朝ごはん食いに来ただけだっつーの」
「言っとくけど、あれあんたのじゃないからね! 本当は私ので、ケンのはついでだから」
「へいへい」
ケンは振り返りもせず私との距離をどんどん突き放して行く。
一緒に行く気があるのかないのかよく分からないけど、ケンはいつもこうだ。マイペースというか、なんというか。
「あっ、あの人……!」
横断歩道で信号待ちをしている時、向かいの歩道を歩いている男性。朝日が男性のかける眼鏡に反射して、私の位置からは人際目立って見えるけど、なんて事ないちょっと風変わりなおじさんって感じだ。
無精髭が生え、ヘアカットも頻繁にされていないような長めの髪を一つ括りにしている細身の男性。おじさんに見えるのはその風体のせいで、実際はどうかわからないけど、眼鏡で顔がよく見えないせいで中年ぽく見える。
風変わりとはいえ、私はあのおじさんの姿を見た瞬間、脳裏に映像が流れ込んでくるかのようにして、思い出したことがある。
「知り合いか?」
訝しがるように私の顔を覗き込むケンには見向きもしないで、私はひたすら向かい側にいるおじさんを見やった。
「知り合いじゃないけど……知ってる」
「なんだよ意味深だな。あんなむさそうなおっさんどこで知ったんだよ」
あの人は、そう……間違いない。
「あの人、昨日私の夢の中に出てきた人だ」
見た夢の内容なんていつもなら覚えていない。今朝だって正直覚えてないし、この数分の間にすでに全てがおぼろげだ。今朝起きた時よりもずっと。
だけど、あのおじさんの顔を見た瞬間、まるで記憶がフラッシュバックでもするように思い出した。
うん、間違いない。あの人は今朝私の夢の中に出てきた人だ。
「こんな遅刻ギリギリの中でなかなかしょうもない話するなよな」
「冗談じゃないってば。本当に見たんだから」
「俺はてっきりお前の好みが変わったんだと思った」
バカにするような笑みでそう言うケンに、私はカンマ入れず平手打ちをケンの背中に入れた。