「やっと終わったのかよ」


シャワーを終えてリビングに行くとケンはお母さんの前に座ってちゃっかり朝食を食べていた。

トーストと目玉焼き、ウインナーとコーヒーという毎朝同じような献立の朝食だけど、出来立ての朝食の匂いはどうしてこんなに食欲をそそるのだろうか。さっきまでなにも食べたくないって思っていたはずなのに、私のお腹は素直にも反応を示した。


「そういうあんたはなに優雅に朝ごはん食べてんの?」

「カヨが食べなさそうだったから代わりに食べてやってたんだろ」

「えっ、それ私のじゃん!」


人間とは欲深い生き物で、匂いだけでなく私のご飯がケンに食べられてると考えたらよけいにお腹が空いてきた。


「お母さん、私のは?」

「そんな時間どこにあるの。さっさと学校に行ってきなさい。ケンちゃんまで遅刻させる気なの?」


でた、ケン贔屓! 誰の親なのか時々わからなくなるくらい、お母さんはケンの味方だ。


「お母さんは娘が飢え死にしてもいいんだね」

「大げさねぇ、一食抜いただけでしょ。それに佳代子、普段からあまり朝は食べないじゃない」

「それはいつも……!」


……って、あれ? やっぱりこの流れなんかとても馴染みがある。最近こんな会話のくだりしたっけ?


「とにかくカヨ、さっさと学校行くぞ。マジで遅刻する気かよ」


指定のリュックを肩に下げて、ケンはお母さんにだけ笑って「行ってきます」と言った。

私はまだ違和感を感じるけど時計の時刻を見て、慌てて部屋に置いてあるリュックを掴んで玄関へと向かった。


お母さんがケンに甘いのもいつものことだし、ケンの両親が家にあまりいないからケンも毎日うちに入り浸ってうちの両親と仲良いのもいつものことだ。だからきっとつい最近も同じことを言い合ったに違いない。