「あっ、アイス買って帰ろうよ。ケン、ちょっとあのコンビニ寄って」


ケンはめんどくさそうな顔を私に向けた。


「俺腹減ってるんだけど」

「私は冷たいものが今食べたいんだけど。ほら早く行って行って運転手ー」


私はまるで乗馬でもしているかのように、ケンのシャツを手綱のように引っ張って、コンビニへ向かうよう促した。

そしたらケンは面倒くさそうにしながらも自転車をコンビニへと向けて走りだした。


ーーと、その時だった。


信号が赤から青に変わったはずなのに、トラックは停車せず私達に向かって突っ込んできた。


『あ、あの人……』


そう思ったのと同時に、こんな状況をどこか冷静に考えていた。

今朝靴紐が切れて転んだ時と同じように自分以外の景色の全てがスローモーションに感じるくせに、私はこのトラックから避ける事はできないとどこかで感じていた。

逃げ出そうと慌てて走り出せばきっと、ここのスローモーションに動く“時”も通常の“時”の流れに戻って、最終的に結果は同じことになる、ってそう感じた。

私はこの後から来る衝撃に備えて瞼をぎゅっと閉じた瞬間、体に衝撃が走った。と、同時に衝撃音が私の耳に届いて、気がつけば私は地面に投げ出されていた。


「カヨ!」


ケンの叫ぶ声が聞こえたけど、もう瞼を開けられる状態じゃなかった。瞼だけじゃなく全てが重くて、呼吸も出来なくて、返事はできそうにないけど、とにかくホッとした。

……良かった。あの声だったら元気そうだ。


そう思った後、私の意識は深い暗闇の中に溶けるようにして落ちていった。