「顎はそんなにだけど、膝は結構腫れてるね。骨には異常もないみたいだし、奥で湿布を替えてもらって帰りなさい。湿布と包帯、あと顎のガーゼ等の替えも出しておくけど、もしまだ痛むようなら痛み止めの飲み薬出しておくからそれを痛い時だけ飲むように」

「あっ、はい、分かりました」


学校から一番近い病院に私達はやって来た。診察してくれた医師は白髪混じりの年配先生で、テキパキと診察を終えたらカルテに視線を落として私の方には見向きもしなくなった。

私は少し足を引きずるようにして診察室の奥にある小部屋に移動した。そこには看護師さんが湿布と包帯を持って私を待ち構えてくれていた。


「すごく腫れたわね。転んだの?」

「はい、体育の時間に転んじゃいました」

「そうなのね。すごく痛かったでしょ? 先生がお薬出してくれてるから痛みがあるならこの後飲みなさいね」

「はい、そうします」


看護師さんはすごく手慣れた様子でパッパと私の腫れた足に湿布と包帯を巻いてくれた。顎もきた時と同じように湿布とガーゼを手早く貼ってくれた。


「はい、できた。お大事に」

「ありがとうございます」


ペコリと一度お辞儀をして、私はそのまま待合室へと向かった。するとスマホをかじりつくように見ているケンの姿が目に入った。


「何見てんの?」

「ゲームの実況中継」


毎回思うけど、知らない人がゲームをしてるのを見て何が楽しいんだろう。私には一生理解できない世界だ。


「そっちは終わったのかよ」


ケンはそう言いながら私の足を見た後、ずいっと視線を上げて私と向き合った。


「しつこくない? 人の顔見ていつまで笑ってんのよ」


教室では柄にもなく声を立てて笑ったくせに、今度は陰険な感じのするニヤリ顔。どっちにしてもムカつく笑いだ。


「顎にガーゼとかマンガだろ、それ」

「うっさいな。ちょっと薬貰ってくるから外で待っててよ」

「なんで外なんだよ、暑いだろ」

「だからでしょ。笑った罰に決まってんじゃん、運転手」


そうこう言ってるうちに受付にいる看護師さんに呼ばれた。


「じゃ、“外”でね!」


私は有無も言わさず玄関口を指差してケンの背中を押した。そのままくるりと背を向けて、受付へと足を運んだ。