私はそう言って少しだけ笑った。するとさっきからぼやけていた視界がクリアになった。それと同時に頬を暖かなものが伝うのを感じて、慌ててそれを拭った。


「怖くないわけじゃない。けど、夢なのかなって思う気持ちがあるのも本当だから」


でもこれが夢なんかじゃないってことはちゃんと分かってる。分かっているからこそ、それはあまり考えないようにしていた。

じゃないときっと、足がすくんでしまいそうになるから。

私は別に良い子なんかじゃないし、自分のことをそんな風に考えた事もない。沸点は低いからいつも簡単にイライラしちゃうし。

でも、それとこの状況とは別だ。


「ねぇケン、お願いだからもう一度タイムリープをするのはやめてよね。これだけは約束して。私はもうあんな地獄のような日々を繰り返したくないし、もしケンがタイムリープしたとしても私はケンの行動を阻止しようとしてもっと酷いことになるから」


未来のケンにそう言うと、ケンは苦虫を噛み潰したような苦しい表情をした後、ゆっくりと頷いてくれた。


「……分かった、約束する。俺もお前を絶望させるために来たわけじゃない」


その言葉を聞いて、私はやっとホッとした。ケンがイライラした時の癖、頬を何度も膨らませたりへこませたりするあの癖を見て、きっとケンは約束を守ってくれると思えたから。


「ケン、言霊って知ってる? 口に出して言うとそれが魂を持って真実になるんだって」


いつかの時、保険医の先生がそんな話をしてくれた。私は現実主義者で、そう言うものは本来信じないタチだけど、これだけ不思議な事を私は体験したんだ。言霊くらいあったっておかしくないんじゃないかって今は思える。

それに信じるか信じないかではなく、それが本当にあったとしたらーー保険医の先生が言っていたように、そんな風に考えるとすれば、私はーー。