「諦めるなんてできるか……そんなもんできるわけねーだろ……」


私は隣に立つ現在のケンにも目を向けた。するとそこにいる等身大のケンも袖で涙を拭っていた。


「……やっぱ、あんたバカでしょ」


ケンの方が頭は冴えてるし、勉強もできる。それは認める。だけど、やっぱり人としての根本のところがバカだよ。


「私が助かったとしてもケンが死んだら、私が悲しまないとでも思ったの? 私がケンと同じ思いをするとは想像できなかったの?」


私は前回のタイムリープの時も、ことりちゃんがトラックに轢かれた時もそう、ケンももしかしたら車に轢かれるかも、自転車とぶつかって私と同じ運命を辿って死ぬかもーーそう思った時、自分が死ぬ事以上に恐怖を覚えた。


「ねぇ、ケン」


ケンもきっと私と同じあの恐怖を感じたに違いない。だから未来からケンはやって来てくれて、現在のケンは自分が身代わりになって死ぬためにあの薬を受け取ったんだ。

……だけどさ。


「さっきも言ったけど、この運命は私のものだよ。だから誰にも譲らない。それにね、私が避けるとどんどん悪化してったじゃん? 私は私の大切な人達が身代わりになんてなって欲しくないんだよ」


私は二人のケンに向かってそう言った。やっぱりケンは兄なんかじゃなく、弟だと思う。

でも正直、最近はこの発想すらちょっと違う気がしてるけど。


「薬は私がもらうから。ケンはさ、立派な発明家にでもなってよね」


私がこう言うと現在のケンが目を真っ赤にしながら、さらに言葉を続けた。


「何だよその口ぶり……お前は死ぬのが怖くないのかよ」


私はそう言ったケンの手から淡い水色の液体が入った瓶を受け取って、こう言った。


「私は何度もこの状況を夢なんじゃないかって思ってたからかな……いつも同じように朝、目がさめるの。だからさ、これも夢なんじゃないかってどっかで思ってるのかも」