「ケンは相変わらずバカだし、大人になったケン、あんたも今のケンと負けず劣らずやっぱりバカだよ! 私を助けるために自分が死ぬってなに? 普段からゲームのしすぎで犠牲心とかを美徳と勘違いしてんじゃないの?」

「お前こそ分かってねーだろ!」


さっきまで黙っていた現在のケンが、堰を切ったように叫んだ。


「俺も2回同じ日を繰り返してんだ。俺は2回もお前が目の前で死んじまったんだぞ!」

「だから何? それで何で自分が死ぬって発想になんのよ! 私の人生は私のもので、私の運命も私のものだ。私の運命は私以外の誰も変える権利はないし、誰にも変えさせたりしない。だからあんたらが勝手に私の運命を決めるな!」


やっぱりバカじゃないの?! そう思ってさらに言葉を放とうとした私を遮って、話を続けたのはケンだった。


「お前は、俺の家族みたいなもんだろうがっ!」


それは現在のケンではなく、未来から来たケンが叫んだ言葉だった。


「俺達は家族よりも強い絆で繋がった、唯一無二の幼馴染だろう……?」


叫んでいるはずなのに、言葉にはどこか力が無い。言葉の途中途中が擦れて私の耳に届いた。

ケンは顔を覆うこともせず、泣いていた。


「血の繋がりはねーけど、でも血の繋がりよりも強い絆で結ばれた幼馴染じゃねーかよ」


私はさっきまでの怒りのボルテージが、一気に下がるのを感じて目の前の光景に目を見開いた。

だって、私はケンの涙を初めて見たから。


「同じ日に、同じ病院で生まれて、家も隣同士で、毎日のように一緒にいて、親同士もどっちがどっちの親かもわかんねーくらい仲良くて……誰が想像できんだよ、お前がいなくなるなんて!」


さっきの薬がまだ効いているのかもしれない。さっきまでは脳が揺れるような感覚がしたけれど、今度は私の心が揺れていた。


「誰を恨めばよかったんだよ!」


大人になったケンは体格こそ今のケンより大きくなったけれど、体はガリガリだ。いくら出不精でインドアだとはいえ、見た目を気にしないほど冴えない奴じゃない。それなのに無精髭は生えっぱなしで、髪だっていつ切ったのが最後なのか分からない。

それはなりふり構わずここに来るため、私を助けるためだけに時間を費やしていたからに決まってる。