どこかおかしいと思ってた。だって執念とも取れる努力をしてここまでやって来た未来のケンが、こんな簡単に諦めてくれるなんて、やっぱりどこか変だと思ってた。

けど、分かってくれたと信じていただけに、私は悔しい。


「カヨの飲んだのはただの睡眠薬だ。そして、現在の俺、こいつが持ってるものがさっき言った本物の薬」


未来のケンは私に顔を寄せて、悪かったなって小さく謝った。だけど謝ったって許してなんかあげない。全然許せない。


私は力を振り絞って、頭を思いっきり大きくフルスイングした。


ガツンッって音が私の額からテーブルにかけて響き渡り、徐々にジンジンとした痛みが脳を支配し始めた。

その痛みを利用して私は意識をしっかりと持ち直し、テーブルの上に散乱したままのシャープペンシルを掴んで、思いっきり自分の太ももを突き刺した。


「いっ……!」


思わず溢れた悲痛な言葉に、二人のケンは立ち上がって止めに入ろうとしたけれど、私はそれを制した。


「カヨ! お前バカか!」

「バカはどっちよ!」


私はもう一度シャーペンを振りかぶって、今度は腕に突き刺した。

ジワリと滲み出る血を見て、二人は慌てている。いつものポーカーフェイスは完全に崩れ去っていた。

私はもう何度も痛い思いをしてタイムリープを繰り返してる。だからこれくらいの痛みは平気……と言いたいところだけれど、正直すごく痛い。それでもあの時、ことりちゃんがトラックに轢かれた時の恐怖と、自分に死が忍び寄る恐怖と痛みに比べたら、こんなものは何てことはない。

それに今は頭の中が怒りでいっぱいだった。興奮してアドレナリンがたくさん捻出されてるから、きっと痛みも半減しているのかもしれない。