瓶には蓋がついていない。ケンが私から小瓶を取って、パキンッと頭の部分を折り割った。簡単に折れる程度の薄いガラスで覆われた液体。サンプルの香水瓶をも思わせる程度の小さなそれを私はケンの手から再度受け取って、ゆっくりと喉の奥に流し込んだ。

それはほんのり甘い味がした。


「じゃあ私は家に帰って、ベッドで横になってこようかな。でもその前にお母さんと話がしたいな」


なんとなく頭がくらりと揺れた気がした。即効性はないって言ってたけど、効果が現れだしたのかもしれない。

でもなんだろう、何かが変だ。ってそう思って立ち上がろうとした時には、足に力が入らなくなっていた。


「お前はカヨママと話をする必要はない。だってカヨはまた、目を覚ますんだから。代わりにここにいる俺と話をしよう」


どういう事? そう問いかけようとした私の背後から、もう一人の声が聞こえた。


「いいや、俺達だ」


誰もいないはずのケンの家に、もう一人のケンがいた。現在のケンだ。そのケンが私の隣に座って、私を見つめている。


「な、んで……?」

「未来の俺が何度もタイムリープを繰り返しているうちに、カヨはこの何度も繰り返される日々の記憶を持つようになったよな?」


現在のケンは淡々とした口調で、いつもの無表情でさらに話を続けた。


「俺もなんだよ、カヨ。前回、前々回あたりから記憶が残ったまま、俺もこいつのタイムリープにつきあってるみたいなんだ」


現在のケンの話を引き継ぐようにして、同じく淡々とした口調・表情で未来のケンはこう言った。


「多分俺と何度も接触したせいで何かしらのズレが生じたんだろうな。カヨの靴紐が1回のタイムリープで何度も切れるようになったのと同じだろう」

「どう、いう、事?」


舌がうまく回らない。脳がしびれるような感覚がして、私はやっとケンに……いいや、ケン達に騙されたんだと気がついた。