「ごめん、ケン。ここまで来てくれてありがとう。助けようとしてくれて、ありがとう。だけど、今回で終わりにしよう」


そう言うと、ケンはいつもの能面な表情で口を開いた。


「……分かった。これで終わりにしよう」


そう言った後、ケンはポケットから小さなガラス瓶を取り出した。


「何、これ?」


それは少し大ぶりなピアスの飾りくらいのサイズだ。透明なガラス瓶の中には透明な液体がたっぷり入っている。


「これは俺が未来で作って持って来たもので、これを飲めば静かに心肺停止して、あたかも突然死したように端からは見えるだろう。苦しみもなく眠ってる間に死ねる薬だ」

「なんで、こんなものを……?」

「万が一の時のため、だな。万が一俺がカヨをどうしても救えないって判断した時の保険だった。何やってもどうあがいても過去が変えられないって思ったら、どうにかしてカヨの飲み物にこっそり入れる予定だった」

「それって……せめて苦しまずに死なせるために……?」


ケンはうんともすんとも言わない。無言で私から視線を逸らした。だけどそれが肯定の意味を含んでいる事を私は分かっていた。


「そっか、ありがとう。じゃあ早速部屋に戻ったら飲もうかな」

「即効性はないから今飲んでおいた方がいい。それに、薬がなかなか効かなくて、誰かが被害に会う前にも」

「確かに、そうだね……」


無色透明なその液体は窓の外の光を受けてキラキラと輝いていた。聞いてる限りこの液体は毒でしかないはずなのに、毒を思わせるような禍々しさのないすっきりとしたクリアなその色は、どこか私の心を浄化してくれるような気がした。

死ぬことが怖くないかと言われたら、嘘になる。だって私はしっかりと記憶しているから。

自分は何度も事故に遭って痛い思いをした。あの痛みはもう正直経験したくもないし、それに自分が死ぬかもしれないって想像しながらの生活は、気が休まらなくて、心臓に悪い。

だから、こんな薬を持って来てくれた事は心から感謝したいと思った。