「着いた。中に入ろう」


そう言って未来のケンはケンの家の玄関扉を開けた。


「あれ、鍵開いてる」

「俺の事だからな、閉め忘れたんだろ」


なんかその表現って変だな、って思いながら内心でちょっと笑いつつ私はケンに続いて家に入った。

ケンの家にはちょくちょく遊びに行っているから懐かしさとか特別な感情は一切でてこない。もちろんケンがうちに遊びに来る回数に比べたら私の方が少ないんだけど。


相変わらずケンの家は片付いてるとは言えない。ケンパパの仕事の資料とか趣味関連の本や雑誌が雑に並べられてるし、ケンママは綺麗好きだけど仕事が忙しいし、仕事のたびに買い物好きに火がついちゃうものだから、いつも物が散乱しっぱなしだ。


「なんか飲むか?」

「ううん、大丈夫。それより話をしよう」


こんなにも時間が惜しいと思ったことは今まで一度もないと思う。私はいつもケンの家に来たら座るダイニングテーブルの椅子に座って、ケンが私の向かいの席に座るのを静かに待った。


「そうだな、これからの話をしよう」


ケンにそう言われた瞬間、私は生唾を飲み込んだ。それから両手をテーブルの上に置いてぎゅっと両手を組んだ。


「ケン、もう終わりにしよう」

「ああ、俺も今回で最後にしたいと思ってるよ」

「違う。そうじゃなくって……私はもう、誰も代わりに傷つくところは見たくないんだよ」


思わず語尾が浮ついてしまった。冷静に言うつもりでいたのに、言葉にすると感情がどうしても高ぶってしまう。


「私はお母さんやことりちゃんやケン、みんなが私の代わりになるところなんて見たくない」


私は目を閉じて、こみ上げてくるものをぐっと押しとどめた。それと同時に瞼の裏に浮かび上がるのはことりちゃんがトラックに轢かれた時の光景だった。