「え……」


替えたての靴紐が、再び見事に切れていた。それを見て私は思わず怖くなって、血の気が引いていくのを感じた。


「カヨ!」


ケンがそう叫びながら掛けてくる様子が目に入って、ケンが何を見て焦っているのか、それはブレーキを踏む音を聞いて理由を知った。

私めがけて信号を横断しようとやって来たトラック、それが急停車しようとする音だ。だけどどう考えても間に合わない。私は再びあの不思議な空間に誘われているのを感じた。

景色が全てスローモーションで動いていた。

立ち上がろうにも、体が動かない。動いたところで、間に合わないことは分かっていた。スローモーションに動く景色の中、私の脳細胞だけがこの空間の逆をいくように、高速で働いている。

だめだ、避けられない。

ケンが私を助けようとかけて来ていた姿も見えるけれど、突然逆走し出したケンのすぐそばには自転車が今にもぶつかろうと迫っている。

その様子もスローモーションで私は見ていた。まるでアクション映画のワンシーンを見せられているかのように。ケンもあの自転車と衝突するであろうことは目の前に広がる光景から私の脳がそう言っている。


『自転車と衝突した時に転んで、お前は頭を強く強打してそのまま死んだんだーー』


さっき未来のケンがそう言っていた言葉が脳内に響いた。


だめだ、このままじゃケンが死んでしまうかもしれない……そんなの、嫌だ! トラックが私を轢くであろう衝撃がどういうものか、想像なんてしたくもない。過去に轢かれた時の痛みだって忘れたわけじゃない。


だけど、私がこれを避けてケンが死ぬんだとしたら、そっちの方が耐えられない……そう思って私はぎゅっと目を閉じ、下唇を噛み締めた。その瞬間、今まで聞いたことのないような衝撃音と、体全身の大きな揺れを感じた。


痛みは感じた気がしたけれど、それを考える余裕もなく、私の意識はプツリと途絶えたーー。