「そう、だったんだ……私それ覚えてない……」


そんな出来事、全く記憶にない。


「二度目は俺も用心してカヨに事実を伝える事は辞めた。代わりに見守る事にしたんだ。靴紐が切れた時も転ぶのを防いだり、怪我をしないように学校に着くのを遅らせて体力テストを受けさせないようにしたりもした」

「そんなの、どうやって?」

「簡単だ、カヨが通る道は俺はよく知ってる。だからそこを工事しているように封鎖したり、カヨの苦手な犬を道に放ったりしてな」


私は犬が苦手な事、ケンならもちろん知っている。まだ幼い頃、近所に住んでいた友達が大型犬を飼っていて、その散歩に付き合っていた時、犬が突然興奮して走り出した。その時リードを持っていた私は、手放せばよかったものをそのまましっかり掴んで引き止めようとしたけど、幼い私はいとも簡単に引きづられる結果となった。

あれが今もトラウマになっていて、犬は全般的に苦手だ。


「それで、その時はどうなったの?」


私はその時の記憶もちっとも覚えていない。トラックに轢かれたあの時もとても曖昧だし、記憶は徐々についてきているような気がするからそのせい……?


「カヨは事故には遭わなかった」


未来のケンがそう言った後、私の心臓はぎゅっと引き締まるのを感じた。


「カヨは?」


現在のケンが未来のケンの揚げ足を取るように、話を繋いだ。私もそこが引っかかったし、話には続きがあることは百も承知だった。だって、そうじゃなければ未来のケンは何度もタイムリープするはずがない。


「カヨママが死んだよ」


目の前が一瞬で色を失った、気がした。