「カヨは9月26日にトラックに轢かれて死んだ。俺と病院に行った帰り道だった。俺はその運命を変えることができるのならって思って、タイムリープする方法を見つけて、作り出して、こうして今ここにいる」


未来のケンは淡々とそう言いながら、目はどこか移ろいでいるようにも見えた。目の前の私を見ながら話しているけれど、その瞳の奥は違う景色を見ているようだった。


「どうやってタイムリープしてるんだ?」


ずっと黙って聞いていた現在のケンが静かに口を挟んだ。ケンの手に握られていたスマホは気づけば手元にはもうない。


「この時計だ。俺が何年もかけて作った」


そう言ってズイっと私達の方に差し出すように腕を伸ばした。そこに付いている腕時計。そのシルバーの時計をよくよく見てみると、中に幾つもの小さな時計盤があって、時針と分針が忙しなく動いている。


「ベースに考えられる相対性理論から宇宙開発、ワームホール理論まで考えて、何度も試行錯誤に実験と失敗を繰り返して、やっと出来たんだ」


未来のケンの声にはどこか安堵の声が滲んでいるように聞こえたけれど、その表情からはケンの感情が読み取りにくい。元々淡白な表情をしているくせに、ヒゲでその顔の一部を隠しているしてるから余計だ。

それに未来のケンを見ていると、大人になってここまで来る間に私が知らない部分をたくさん持っているように思えてならなかった。


「タイムリープが上手くいってこの時代のこの日に戻れた一度目、俺はカヨに全てを打ち明けたんだ。あのさっきの交差点で」


未来のケンは公園の外、交差点のある方角を見やった。


「俺がカヨの姿を見てカヨに状況とこの後に起こる事を一気に伝えたら、お前は怖がって俺から逃げたんだ。その時に角を曲がって来た自転車と正面からぶつかってカヨは……」


ゆっくりと噛みしめるように、未来のケンは瞼を閉じた。


「信じられるか? 自転車と衝突して、お前は頭を強く強打してそのまま死んだんだぞ。打ち所が悪かったってだけで、トラックや車と衝突したわけでもなく、自転車で死んだんだぞ?」


未来のケンの言葉尻から、助けられなかった悔しさが滲み出ていた。