ドクドクドク、と血が煮えたぎる音が耳障りに思えた頃、私はゆっくりと瞼を押し開けた。


「……はぁ、はぁ」


どうやら寝ている間に息を止めていたらしい。

新鮮な空気を肺の奥まで送り届けて、私はゆっくりと手の甲で額に触れた。すると、びっくりするほどびっしょりとした汗が私の手の甲を濡らした。


「嫌な夢を見た」


私は思わずそう呟いてから上体を起こし、体にまとわりつくTシャツをおもむろに引き剥がして、ふと天井を見上げて首を傾げた。


「……って、どんな夢だったっけ?」


夢は覚えていないことの方が多い。

目覚める直前に見た夢は覚えていて、眠りについてからすぐに見た夢は忘れやすいって何かで聞いたことがあるけれど、この話が本当なら私の場合は眠りについてすぐに夢を見ているのかもしれない。



「シャワー浴びる時間あるかな?」


壁にかけてある時計の針は7時を回ったところ。そろそろ幼馴染のケンが迎えに来る時間だ。


「佳代子(かよこ)、いつまで寝てるの。とっくにケンちゃんが迎えに来てるわよー」


私が制服と替えの下着を棚から取り出してる間に、ケンは来ていたらしい。


「お母さーん! ケンにシャワー浴びるから先に行ってって、伝えといてー」


私はそう叫ぶとともに、部屋を出て一本道の廊下を通ってお風呂場へと向かった。

するとケンは、お風呂場へと続く洗面所の扉の前で待ち伏せしていた。


「お前、そう言うことは早めに言えよな。メッセージ送ったら一発だろうが」

「いや、だから打つ暇ないくらい急いでたんじゃん」


開き直った私は、ため息を吐くケンにあっけらかんとそう言った。


「はぁ、お前なぁ……もういいからとりあえず入ってこいよ」


ケンは諦めたと言わんばかりに首を小さく振りながら扉の前から離れて、お母さんがいるキッチンへと向かった。