『お前はもっと、いろんなことを真面目に考えなさい。でないと来年は受験生だっていうのに、困るのは自分だぞ?』
だけど、たった今、先生に言われた言葉が脳裏を過り、息が詰まる。
いろんなことを真面目に考えるって、どうやって?
将来の夢も希望も――なにも持たない私に、いったいなにを考えろっていうの?
「バカみたい……」
昇降口を出て、ふと顔を上げると揺れる新緑が視界を埋めた。
ああ。そういえば十年前、あのタイムカプセルを埋めた時も、季節は春が終わったばかりの頃だった。
放課後に集まって、各々の当時の宝物を、あの小さな缶箱の中に詰めたんだ。
「……帰ろ」
ぽつりとつぶやいてから、前を向く。
頬を撫でたのは生ぬるい、初夏の濡れた風だった。
――あのタイムカプセルも、もう掘り起こすこともないだろう。
私は風で流れた髪を耳にかけると、通い慣れた道をひとり、急ぐ。
足元に転がる小石を蹴れば、それは何度か跳ねた後、道路脇の側溝へと転げ落ちた。