「とにかく。お前はもっと、いろんなことを真面目に考えなさい。でないと来年は受験生だっていうのに、困るのは自分だぞ? そもそもまだ進路すらハッキリ決まってないんだから、まずはそこからじっくりと──」

「山瀬先生! ちょっといいですか? 今、来週の柔道部の習試合のことで、先方の先生からお電話が入っているのですが……」


お説教モードに入りかけていた山瀬先生を、タイミングよく数学担当の田中(たなか)先生が呼びに来た。

ようやくこちらから視線を外した山瀬先生を前に、私は一歩、後ずさる。


「ああ、すみません。ありがとうございます」

「それじゃあ、私はお邪魔になると申し訳ないので、今日は失礼します。先生、さようなら!」

「あ……コラッ! 勝浦、お前、まだ話は──」


話は終わっていなくても、そんなの聞いていられない。

さっさと回れ右をして、足早に職員室を出てから思わずホッと胸を撫で下ろした。


「ふぅ……」


よかった。あのままだと、長いお説教タイムに突入するところだった。

さぁ、帰ろう。

カバンを肩にかけ直し、昇降口に向かって足早に歩く。

日直の仕事と余計なお説教で、帰り時間がいつもより、ほんの少し遅くなってしまった。

頭の中は、好きな漫画の続きが気になって、そのことでいっぱいだった。