「うん、それでいこう。ありがとう、イチコ!」
なにが、ありがとうよ……と、心の中で悪態をついてしまうのも仕方がない。
「やっぱりイチコに頼んでよかった。ホント、イチコだけが頼みの綱だったんだ」
だけど、そう言って笑ったロクの笑顔が、あまりにも嬉しそうだったから……。
なんとなくいたたまれなくなった私は、返す言葉に詰まってしまった。
「それじゃあ、とりあえず連絡先の交換しておこう。また詳細は追って連絡して。待ってるから」
──待ってるから。
言葉は違えど十年前、『約束な』と言ったロクの声が聞こえた気がして、胸の鼓動が大きく跳ねた。
再び動き出した、私たちの時間。
あの頃とはまるで関係性は変わっていても、今、目の前にいるロクは当時と変わらず強引で……真っ直ぐだった。
「とりあえず、タイムカプセルは俺が預かっておくよ」
だけど、大切そうに缶箱の入った紙袋を持ち上げたロクを前に、不安が過った。
あの、壊れた腕時計は……いったい誰の宝物なのだろう。
「イチコ、どうした?」
「う、ううん、なんでもない」
慌てて首を横に振った私を不思議そうに見たロクの頭上には、茜色の空が広がっていた。
──放課後、小学校の裏山にある神社の、一番大きな木の根元。
あの日、五人で見上げた空と同じ色に染まった太陽は十年前と変わらずに、私たちのことを照らし続けてくれていた。



