「お願い、イチコ」
背中にぬくもりが触れて、それがロクの身体だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
小さい頃は相撲とか、くっついてすべり台だってしたことがあるのに、なぜだか今は胸の鼓動が甘く高鳴り、落ち着かない。
「どうしても無理だっていうなら、明日から毎日ここにお願いに来る」
「は……? そんなことされても、居留守使うし!」
言い返すと、ロクは「ふぅん」と意味深に笑った。
十年も経つとこんな顔もできるようになるんだと、内心で感心してしまう自分が自分で嫌になる。
「それじゃあ、明日から毎日、放課後はイチコの高校の校門の前で立ってようかな。その制服、花ヶ咲高校の制服だろ?」
「な……っ、や、やめてよ! そんなことされたら、変に目立って困るんだけど!」
さっきから、予想外のことばかり口にするロクに、振り回されてばかりだ。
顔が自然と熱を帯びていくのがわかって、恥ずかしくなった。
今、目の前にいるロクがうちの高校に現れたら、女子は絶対に放っておかない。
十年前、ヤンチャ坊主だった彼は、今ではすっかり顔立ちの整った好青年だ。
そんなロクに毎日待ち伏せされるなんて、最悪でしかない。
あらぬ噂でも立てられて、男子から冷やかされるのは嫌だし、女子から変な目で見られるのも絶対に嫌。



