「……だからね、ニーナはタイムカプセルのことなんて覚えてないと思う」


足元に視線を落としてつぶやけば、なんだかとても虚しくなった。

あの出来事以降、ニーナとは一度も話をしていない。

これまで何度か、学校の廊下ですれ違うことはあったけれど、お互いに目を合わせることもなかった。


「だから、もう諦めようよ。私が今でも居場所がわかるのは、ニーナだけだし。やっぱり今更みんなに届けようなんて、そんなの無意味なことだから──」

「よし、ニーナに届けよう」


けれど、今までの私の話なんかちっとも聞いていなかったらしいロクは、断言してから手に持っていた腕時計をタイムカプセルの中へと戻した。

そうしてさっさと蓋を閉めると、再び缶箱を紙袋の中へと入れてしまう。


「ニーナに届けるって……今の話、聞いてた?」


唖然とする私に、ロクは笑顔なんて浮かべながら、飄々とした態度で「うん」と答えるから腹が立つ。

なんなの、ホントに。十年会わないうちに、頭をどこかにぶつけたんじゃないの?


「居場所さえわかれば、あとは渡すだけだろ」

「無理。ニーナだけは絶対に無理だから。あの子はもう、私たちが知ってるニーナじゃないの。だから絶対無理。それでも届けるっていうなら、そんなの勝手に、ひとりでやって」


もうロクとはなにを話しても埒が明かない気がして、再び回れ右をした。

するとそんな私に駆け寄ってきたロクに腕を掴まれて、身体がよろめいてしまう。