「だから……イチコ。俺と一緒に、これをみんなに届けてくれないか?」

「はい……?」

「俺ひとりじゃ、多分できない。イチコの力が必要なんだ。イチコとふたりでなら、やれると思う」


……なに?

思いもよらないことを言い出したロクに、私は目眩を覚えてしまった。

タイムカプセルの中身を、みんなに届ける?

それはまぁ、勝手にやってくれていいとしても……私とふたりでならやれると思うって、この人、十年ぶりに会って、なに言ってるの?

そもそもタイムカプセルの中身を届けたいって、そんなことして、なにになるのよ。

そんなことをしても、今の現状はなにひとつだって、変わらないのに。


「……無理」


ぽつりとつぶやいてから、私は回れ右をした。

バカバカしい。十年ぶりに幼馴染と再会して、ほんの少しだけ感動してしまった数分前の自分を殴りたい。

あの腕時計だって元から壊れていたのかもしれないし、そもそもちょっと箱が倒れて外に飛び出したくらいで壊れる腕時計なんて、今ではもうガラクタだろう。


「イチコ!」

「……っ」


そのまま真っ直ぐに家に帰ろうとした私を、ロクの凛とした声が呼び止めた。

『イチコー! 遅刻だぞー!』

懐かしい、五人で過ごしたあの日々が脳裏を過って、つい足が止まってしまう。