「それ……」
「え?」
ゆっくりと身をかがめて、地面に転がっていたそれを拾い上げる。
「腕時計?」
言葉にしてから改めて手の中に収まるそれを確認すると、足元を冷たい風が駆け抜けた。
シンプルなアナログ式の、男物っぽい腕時計は、よく見れば黒いベルトの革の部分は擦り切れていて、文字盤のガラスにはヒビが入ってしまっている。
秒針も止まっていた。
外見から推測するに、電池が切れているというわけではなく、壊れているのだろう。
これも今、タイムカプセルの中から飛び出したのだろうか。
「これ……」
もしかして、今、私が缶箱を倒してしまったせいでガラスが割れて壊れたの?
そう考えたら無性に胸が不安に襲われて、心臓が早鐘を打つように高鳴った。
無意識にロクを振り返れば、彼は視線を地面に落としたまま、ゆっくりと立ち上がる。
そうして私の手から壊れた腕時計を取ると、どこか切なげに、まつげを伏せた。



