「ここにあるのは、過去の自分が未来に届けたかった言葉だろ。それをくだらないと思うのは、今の自分が子供の頃に思い描いたような人になっていないからだ」
強くそう言い切ったロクは、目を細めて私をにらんだ。
ついビクリと肩を揺らしてしまったのは、ロクの言葉が胸の奥深くに突き刺さったから。
「そうだろ、イチコ」
……どうして? どうして、そんな目で見られなきゃいけないの?
別に、私はただ一般論を言っただけだ。
十年前の自分が書いた手紙なんて、くだらない、子供じみたことが書いてあるに決まっている。
それを、思い描いた自分になっていないからだなんて……そんなこと、十年ぶりに会ったヤツに言われる筋合いはない!
「……っ、離して!!」
ロクの手を振り払うと、勢いよく立ち上がった。
その拍子に振り払われたロクの腕が缶箱に当たり、箱が倒れて中身が飛び出してしまう。
「あ……っ」
小さく声をこぼしたロクは、慌ててそれらを拾い上げた。
幸い風が吹いていなかったので、みんなの手紙が飛んでいくような事態にはならずに済んだ。



