「イチコ……だよな?」


……誰?

心の中で聞き返してから、真っ直ぐに彼を見つめた。

癖のない、綺麗な黒髪。

髪と同じくビー玉みたいに透きとおった黒い瞳が、私のことを見つめている。

背は……私よりも頭ひとつほど高いだろうか。

階段に立っているからハッキリとはわからないけれど、多分、そんな気がする。


「かつうら……いちこさん?」


立ちすくんだまま、なにも答えない私を不思議に思ったのだろう。

今度は恐る恐るといった様子で名前を尋ねた彼は、階段を降りて近づいてきた。


「……はい、そうですけど」


内心では警戒しながらも、どこか必死な様子の彼を前に思わず素直に答えてしまった。

すると私の返事を聞いた彼が、わかりやすく顔を綻ばせる。