敷地内には四階建ての建物が五棟並んでいて、薄汚れた黒に近い灰色のコンクリート壁に、ところどころヒビまで入っている建物は、来年から外壁の改修工事が予定されているらしい。
団地の裏には小さな林があって、鬱蒼と木々が生い茂っていた。
私が住んでいる一〇五号室は一号棟の一階、団地内に整備された公園から一番近い場所にあり、小さい頃はそれが理由で、よくみんなにうらやましがられたものだ。
『イチコんちは、すぐに公園に行けるからいいよな!』なんて、そんなことを言っていたのは、あの四人のうち、誰だっけ?
「……イチコ?」
「……っ!」
一号棟の、我が家の古びた玄関扉まであと数メートル。
不意に名前を呼ばれた私は、足元へと落としていた視線を上げた。
見れば家に続く三段ほどの階段に、見覚えのない制服姿の男の子が立っている。