それは、本当に予想にもしてなかった。
電気を消してベッドに入ったはいいものの、中々眠れない最中スマホがなったのだ。
そこに指示された名前に戸惑いながらも、何度もディスプレイのその文字を見つめる。それはもう、穴が開くんじゃないかってくらい。
だけど何度見ても指示されてるのは同じ名前。
「日向君、から・・・」
暗闇の中見るスマホは少し眩しい。
見るのが怖いような怖くないような、不思議な気持ちに押しつぶされそうになりながらゆっくりとメールを開く。
――――――――――――
Date 05/21 20:10
From 日向大地
Sub Re:Re:
――――――――――――
ごめん、寝ちゃった!
――――――――――――
変わることなんてない、と。
進むことなんてない、と。
そう思っていた。
だけど、たった一通のメールから私たちの関係は、動き出した。
「あと1週間で文化祭かー」
文化祭の準備を終えた私と莉奈は、久しぶりに街にあるファーストフード店に来ていた。
カラン、とコップに入っている氷をストローで動かすと。
「お待たせ」
ちょうど待ち合わせをしていた3人が、部活を終えてやってきた。
ドキンッ、と心臓が飛び跳ねる。
「遅いよ、3人とも」
そう言いながら莉奈は私の前から、私の横に席を移動した。
「しょうがねーだろ、部活なんだから」
平松君が莉奈の前に、私の真正面に座ったのは日向君、その間に葉月君が座った。
戸惑いを隠すかのように、ストローでまたカラン、と氷を動かす。
莉奈の彼氏が平松君ということと、幼馴染である葉月君が日向君と仲がいいこともあり、最近では5人でいることが増えた私達。
放課後とはいえ、今日は初めて学校以外で5人で会う日だ。
料理を注文し終わって、それぞれがドリンクバーで飲み物を取りに行き、一息つくとここでも話題は文化祭の事。
「あ、ねえ!文化祭5人で回ろうよ!」
「おー!それいいね!!」
莉奈の提案にノリノリの葉月君。
それはそれで私も楽しそうだしいいんだけど・・・。
「中野と平松は一緒に回らなくていいのか?」
日向君の一言に葉月くんがハッとしたかのような表情をした。
そう、それが私も言いたかったのだ。付き合ってる二人からしたら、私達が一緒にいたらどう考えても邪魔者だろう。
だけれども莉奈は相変わらず笑顔で。
「あたし達は去年一緒に回ったし、やっぱり文化祭は人数多いほうが楽しいじゃん!翔也もいいよね?」
半ば誘導するような形で平松君を頷かせた莉奈。
「じゃあ決まりだな!」
盛り上がる莉奈と葉月君。チラリ、平松君を見ると、楽しそうに笑う莉奈に優しい眼差しを向けていた。
「・・・」
「俺、飲みもん取ってくるわ」
「はーい。いってら!」
「相川と大地の飲み物も何か持ってこようか?」
そう言って私と日向君の空のコップを指差した。先ほど入れたばかりのアイスティーは気が付けばもう飲み干していたようだ。
「あ、大丈夫。自分で行くよ」
「俺も」
立ち上がった私達を気にする事なんてない二人を横目に、私達はドリンクバーに向かった。
ドリンクバーについてすぐに、日向君は飲み物が決まっていたようでボタンを押していた。
私も先ほどと同じものを選ぶ。ピッ、とボタンを押せば流れ出てくる飲み物をただボーッと見ていると。
「平松は、マジでいいのかよ」
既に飲み物をコップに入れ終わった日向君は、壁にもたれ掛かりながら、揺れる水面を見つめていた。
「何が」
どれにしようか機械の前で迷ってる平松君。二人は瞳を合わそうとはしない。
「俺らと文化祭一緒で」
「莉奈がそうしたいって言ってるんだからしょうがないだろ」
「ふーん・・・」
日向君がコップを回すたびに、水面下で氷達が音を立てる。
「本当は二人で回りたいけど、アイツが楽しめるならそれでいいよ」
その言葉に平松君のほうを向くと、既にコップには飲み物が注がれていた。
「今の、莉奈には内緒な」
人差し指を口元に持ってくると、少しだけ口角をあげた。
「・・・」
「こんっのー!リア充め!!」
「ちょ、大・・・っ、危ねぇ!!」
後ろから勢いよく肩を組まれた平松君は危うく飲み物をこぼしそうになっていた。
そんな彼の肩に手を回した日向君の手に握られているコップには既に、先程まであったものがなくなっていた。
「調子のんなよー!」
「うるせぇ。耳元で大声出すな」
「見直したぜ平松!」
「はいはい。っていうかお前、もう飲んだのかよ。先戻ってるぜ」
そう言って席に戻っていく平松君の背中がどこか小さく見えたのは気のせいだろうか。
賑やかなはずのファミレス。けれど私と日向君のいるここだけは、別の空間のように感じた。
「平松君って、莉奈のこと本当に好きなんだね」
「・・・・・・あぁ」
やっとのことで絞り出した会話は、日向君のたった1.5文字の言葉によって終了。
先ほどまでのおちゃらけた彼のキャラはどこへやら。少しおちゃらけてくれると私としてはとても助かるんだけど・・・。
私も先に戻ってしまおうか。
そう思い彼の横を通り過ぎようとすると。
「平松さ、」
その声に、足をピタリと止める。
「中野のことを思って、自分が嫌でも我慢するなんてすげーよな」
「・・・そうだね」
「俺だったら、ぜってぇ無理だ」
文化祭を彼女と二人で回れないことが、かな?
しかし彼にとっては、その言葉は少し違う意味を帯びていた事に気づくことができず、私はただ頷いた。
「相川さん、先戻ってて!」
ハッと彼のほうを向けば、いつもの笑顔を振りまけていた。
「あ、うん」
その意味が分かるのは、まだまだ先のこと―――――。
そんな日の夜でも私のスマホは音を立てる。
今日もきた・・・!
半ば予測してたメール。
最近はメールからLINEに変わったため、メールを送ってくる人は限られてくる。
しかも最近メールをしてるのはたった一人。
「やっぱり・・・」
やっと見慣れた、明朝体で指示される日向君の名前。
1日数通のやり取りをして、だいたいどちらかが寝落ちをして次の日に返信、というのが定番になっていた。
でも彼からしてみたら毎日のメールって迷惑なのかな。部活があるから返信はいつも夜の9時以降だし。
なんて思いながらメールを開封する。
彼と私のメールは基本短文だ。
多くても改行して3行ぐらい。
――――――――――――
Date 05/23 21:03
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:
――――――――――――
今なにしてる?
――――――――――――
昨日返信しにくい内容で返したから、ひょっとしたら返ってこないかもと思っていたけれど、まさか返してくれるなんて。
それに質問系だと凄く返しやすいんだなぁ。
購入して早1年が経つスマホの画面を慣れてしまった手つきで指を滑らせる。
――――――――――――
Date 05/23 21:07
From 相川美空
Sub Re:Re:Re:Re:
――――――――――――
音楽聴きながら
日向君とメール\(^o^)/
――――――――――――
送信、っと。
そしてすぐに返信がきた。
――――――――――――
Date 05/23 21:09
From 日向大地
Sub Re:Re:Re:Re:Re:
――――――――――――
何聴いてる?
――――――――――――
部屋に流れてる音楽は、以前のお昼の放送でも流されていたCloud 9(クラウドナイン)の曲。